親子関係をイーブンに戻せないときに何が起きるかについて、参考になる書籍がありました。『ハラスメントは連鎖する 「しつけ」「教育」という呪縛』(安冨歩、本條晴一郎著、光文社新書、2007年)です。
一部紹介します。
親が子どもを、矯正されるべき存在として下に見ていたとします。当然、子どものありのままを受容していません。子どもはときとして、鬱陶しい存在になります。
親が子どもにうんざりした気持ちを感じながら、「お前は疲れているんだから、もう寝なさい」と言ったとします。一見、何の問題もないように見えますが、実はそこに、心理的な危険が埋め込まれています。
そのことばは、
「私はおまえを愛しているから、その体を気遣っている」
という意味であり、同時に、
「おまえにはうんざりしている。うせろ」
という、感情を否定する意図が込められることになります。つまり、
「わたしがおまえを厄介者扱いするような、そんな意地悪い人間だと思っていないだろうね」
という命令が仕込まれているのです。
これは二重拘束です。どう転んでも親のコントロールを抜け出せないしかけになっています。真綿の中に「針」が仕込まれている状態です。
子どもはそこに針が仕込まれていることを認識します。真綿に包まれた針を受け取った子どもは、それに反応するように追い込まれます。そのときの反応です。
一つ目は、「親は自分を愛していないし、自分を騙そうとしている」ことに気づきます。しかしこれは子どもからすれば恐ろしい考え方で、とても認めることはできません。自分の認識を受け入れることができず、自己は喪失させられます。
もう一つの反応は、痛みを感じない振りをして、その真綿を無害だと思い込むように自分を誘導します。その結果、親の偽りを受け入れることになります。疲れていないという感覚は間違っており、親が言うことが正しい。自分の感情を欺いて、疲れなど感じていないのに疲れていることにします。自己は喪失させられます。
親の欺瞞に加担した子どもは、生き延びるために、親の間違ったメッセージを受け入れます。
さらに、自分の内的なメッセージも間違って認識するように誘導されます。その結果、どうなるでしょうか。状況を感じ取る羅針盤を自分で破壊することになります。
羅針盤を破壊された子どもは、鉛色の空の下でうつ状態に圧倒されながら漂流することになります(23~25頁)。これが、うつっぽさ、生きづらさのメカニズムです。
続く


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