自分取り戻しカウンセリングのプロセスでトラウマ記憶がテーマになり、クライエントが、トラウマ記憶がパッといやされることを期待するケースがあります。「トラウマがあっという間に消えた」的なキレッキレ系の研修や書籍も出回っていますので、クライエントが期待するのも無理ありません。
トラウマはそれほど深くなければ、短期間のカウンセリングで解消できる場合もありますが、科学的に見れば脳と身体に深く関わっている疾患であり、一瞬にして消えてしまうことは稀です。ゆっくり時間をかけて対応します。
時間の長さは人それぞれです。次のような要因が関係していると考えられます。
1 トラウマになったイベントの深刻さ
2 トラウマを発症したあとの加害側との距離や会う頻度
3 加害側の対応、加害側が事実に向き合おうとする程度
4 被害を負った人が加害側に被害の実態を説明できるか
カウンセリングの役割は、寄り添い続けることです。心理臨床の専門性をもって、共に歩みながら、少しずつ回復を目ざします。
トラウマ臨床の考え方
どのようなメカニズムで起きるのかを説明しました。トラウマ臨床は、記憶のネットワークを意識していることが大切です。
基本的な考え方は、過覚醒(交感神経の暴走)を鎮静化し、脳に、「今、ここ」が安全だと認識してもらうことです。
1 扁桃体
過度なストレスで器質的変化を起こしている可能性があります。二四時間危険信号を出し続けないで済むように、過剰に刺激しない環境を確保し、それに慣れてもらうようにします。これが第一の目標です。具体的に、次の二つのことに心を用います。
(1)安心できる環境に身を置く
(2)信頼できる人間関係を体験する
カウンセラーが、一時的ですが、信頼できる人の役割を果たすこともあります。
2 海馬
過去と今を分けて意識するなど、インデックスを付け直すことを心がけます。脳内に散らばっている記憶の断片が思い出され、フラッシュバックが起きたときには、次の三つの「時」を意識するようにします。
(1)トラウマ体験を受けた過去の状況
(2)フラッシュバックが起きたときの状況
(3)今の状況と感情
「フラッシュバックは脳が過去の出来事に反応しているだけで、今は大丈夫だよ」と、自分で自分に声をかけます。
3 前頭前野
記憶の整理・統合を担っている前頭前野の働きを使って、インデックスが付かないままバラバラに散らばっている記憶の断片を整理し、もう一度大脳皮質に格納しなおします。これを「記憶の再固定化」といいます。
記憶の再固定化には、マインドフルネスが効果があると考えられています。また、レム睡眠の間、脳はバラバラに断片化した記憶を取り出して再固定化する作業を行っています。良質の睡眠はトラウマからの回復にとって重要です。
悪夢を見ることがあります。悪夢を見ると、「また症状が悪化した」と思って気持ちが落ち込みます。実は、悪夢を見るのは、脳がその風景の記憶を処理しようと懸命に頑張っている証拠です。「一生懸命やってくれているけど、ちょっとうまくいかなかったね。それでもありがとう」と、脳に優しく声をかけます。まだ立ち直っていないと考えて、失望したり自分を責めたりする必要はありません。
その他、タッピングなど、脳機能のバランスを回復する方法についても考えます。
感情反応が強く出ることが予想される場合は決して無理をしてはいけません。すぐにそれまでのカウンセリングのやりとりに戻ります。
トラウマ臨床は、程度によって医療的なケアが必要になる場合がありますので、あらゆるケースについてカウンセリングが万能感を持つのは間違いです。
続く

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