これはキリスト教を背景にした心理臨床だけの問題ではありません。カウンセリングの基本です。一貫して肯定的な面を探しながら話しを聴きます。否定的な心情が吐露されたり、親の支配に屈してきた場面が語られたり、ネガティブな要素が出てくるのが普通です。そうすると、どこが問題だったのかを探しながら聴いてしまいます。また、誰が犯人だったのかを探しながら聴いてしまいます。しかしこれは、正しくありません。
クライエントは常日頃から否定され続けて生きてきました。カウンセリングに行ってまた否定されたら傷に塩を塗り込むようなものです。
このクライエントはどこが長所なのだろう。このクライエントはどのような強みを持っているだろう。このようなことに絶えずアンテナを働かせながら聴いて行きます。どのような人であっても、必ず良い点はあります。無いと感じたら、自分が感じ取る感性が欠けていると思ってください。
セッションのしめくくりでは、ネガティブな面に触れるのではなく、長所、ストレングスを評価して終わるようにします。次のことはしばしばお話しします。
1 「適用力、修正能力がおありですね」
修正が出来なかったからカウンセリングに来ていると考えるのは間違いです。修正能力があるから、切り抜けてカウンセリングに来ることができたのです。
2 「感じ取るすぐれた感性をお持ちですね」
感性がすぐれているからこそ、人一倍、いろいろなことを感じとることができたはずです。それがきっかけになって、主訴で語られる問題に直面することになったと考えることができます。
3 「優しさがおありですね」
加害側の言い分を聞き入れてしまったということが語られたとします。聞き入れてしまったことは、現象としては失敗だったかもしれません。クライエント本人も、失敗だったという認識を持っているかもしれません。しかし、心理的な角度から見れば、相手のことを受け入れたのは、そして特に相手が親であった場合は、その根底に親を否定できない優しさがあったのです。
4 「お話しを伺っている限り、あなたには間違ったところが一ミリもありません」
クライエントはしばしば自分を責めています。しかし、ほとんどのケースで、精いっぱい、ぎりぎりで頑張っているのです。
肯定的な見方は、信頼関係構築にプラスになります。自分のことを肯定してくれる人を信頼するのは普通です。
クライエントが問題を指摘されて、ズタズタになって帰るようなことだけはしてはなりません。「この問題をクリアできればこのクライエントはよくなるのに」と考え始めていたら、黄色信号です。
温かい見守り
深いところを静かに見つめ直すプロセスでは、安心して自分に向き合える環境が必要です。カウンセラーは、肯定的で一貫した温かい環境を提供します。クライエントを決して指導してはいけません。
劇的な変化を求めるのは間違いです。長い時間の中で身につけた思考や感情は、一夜で変わるものではありません。クライエントが安心して一歩一歩進んで行けるように、肯定的に支えて行くことが大切です。
ファストフード社会、生成AIを使いこなすわたしたち二一世紀人は、自分の人生の問題もリターンキーを押して一瞬にして答えを出そうとします。ゆっくりでかまいません。急に変えてしまったものは急に戻る可能性があります。むしろ、ゆっくりのほうが健全です。
「二十年かけて身につけたのだから、取り除くのに二十年かかります」という言い方がされることがあります。しかし、これは少し極端な気がします。安全な環境の中で十分な振り返りができれば、それほどの時間を要するものではありません。
大切なのは、振り返りの内容と質です。そしてそれを支えるのが、カウンセラーの大切な役割です。
続く

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