宗教二世、教会二世 内部者の証言③ 自分取り戻しへの出航

宗教二世/教会二世

自分が体験したことのからくりを解明しようと決意しました。臨床心理学の大学院に進み、臨床心理士の資格を取得しました。

自分なりの実践と研究に取り組み始めたものの、団体が好意的に受け止めてくれるはずもありません。自分のスタンスは折あるごとに批判されました。

自分が学んだ牧師養成学校の責任者、さらには団体のハラスメント対応の責任者に任命されました。立場上、聞くことになった被害者の報告は思っていた以上に大変なものでした。一人の宗教者として、それ以前に一人の人間として、黙っていてはいけないと感じました。何があっても被害者側に立とうと決めました。それが自分の人生であり、人としての良心だと思ったら、何の迷いもありませんでした。

ハラスメント問題を団体に上げました。抵抗は激しく、それからしばらくの間、針のむしろの期間を過ごすことになりました。

人事異動で担当部署をはずされました。ある先輩のアドバイスに後押しされ、団体と距離をとることにしました。首をかけて取り組んだハラスメント問題は、かくして葬り去られました。

親は長いこと自分の生き方を受け入れようとしませんでした。自分の人生は自分の足で歩くと決めた以上、親との距離は仕方ないと諦めていました。団体と距離を取る決断をしたことだけは知らせておこうと、数年ぶりに両親を訪ねました。事情を聞いた父は言いました。生まれてこのかた一度も聞いたことのないものでした。

 「きみの側に立つよ」

心の中で泣きました。何の涙だったかよくわかりません。よかったなどという単純なものではありません。原家族に問題があることに気づいて以来、両親に対する徹底抗戦の姿勢は一ミリも譲らず、ブレなくてよかったと心底思ったことだけは確かでした。

親も知らないでやっていた部分が多かったのも事実で、ある意味、不健康な宗教の犠牲者になったとも言えます。

ここまで内部者の視点から、宗教が背景にある一家族、一団体の中で起きたことをリポートしました。

体験には幅があります。自分の体験から見えてくることがだれにでも当てはまる普遍的なものだとは思っていません。最後の部分で、カウンセリングのモデルを提示していますが、それもアカデミックなフィルターをかけたものではありません。

このケースを読んで、どのように受け取るかはまったく自由です。希望を見いだすプロセスで、自分のことを考える材料にしてほしいだけです。

いろいろな影響があることを理解した上で、それでも教会二世として苦しんだ方々に、生き直しの希望があることを伝えたい。それだけです。

続く

河村従彦

臨床心理士/牧師
カワムラカウンセリングルーム運営
KCPSコンソーシアム(牧会・心理職研修会)主宰
牧師人材育成、大学非常勤講師、ボランティアカウンセラー養成、出版、児童発達支援、職員コンサルにも従事、企業の総務にも関わる
東京、神奈川、静岡で教会を牧会
臨床心理学とキリスト教の両方に関わる領域に関心
「神イメージ理論」はライフワーク 博士(人間科学)
若い頃のアイデンティティ崩壊、人生後半にメンタルバランスを崩した経験から、人のお役に立ちたいと願って臨床を続けている

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